HOME > ESSAY > COUNSELING INSIGHTS

最後の5分間(The Last Five Minutes)

Tyl HP COUNSELING INSIGHTS August, 2001


あるマスターズディグリーセミナーの会合で カウンセリングの収録テープを初めて公開した時、最後のわずかな語りかけの部分で爆発的に起きた拍手喝采に驚かされたことを鮮明に思い出します。単にカウンセリングプロセスを鑑賞(理解)したという拍手でなく、その熱狂は、最後の5分間の会話の具体的内容に対する聴衆の自然な反応であったことに程なく私は気付きました。

一連の会話を全て文章化した私の資料を参照し、あらゆる単語を熟考しながらその公開カウンセリングを聞いていた占星家達は、カウンセリングの結論によって元気づけられ、救われたと感じたでしょう。およそ45分間のクライアントと私の激しいやりとりを客観的に聞き、私自身そのように感じました。このカウンセリングの収録テープは、称賛の感覚や深い理解力、そして未来へ向けての支持的なエネルギーに満ちていました。

カウンセリングにおける最後の5分間は非常に重要です。この5分間は、クライアントが自身の世界に戻るための梯となります。それはひとつの「出発」としてクライアントの心に最初に最も強く刻まれるものです。そしておそらくは、クライアントが心情吐露できる友と初めて共有した思い出となるでしょう。

クライアントの涙や苦悩、痛みの回想、絶望感によって中断せざるを得ないカウンセリングを私はいくつも経験しました。怒りと憎しみに侵された状態から解放され、最終的には客観化と理解を通して新鮮さや前向きな気持ち、そして決断を共有します。最後のわずか5分間にまとめられた結論、再確認、要約は、クライアントの魂を前向きにさせ得るのです。

カウンセリングの最後の5分間の会話に入るにあたり、私は「3つのR」に厳重に注意を払うようにしています。「3Rs」とは、「Review:再確認」「Reinforcement:補強」「Raising Spirits:励まし」です。

「Review:再確認」 カウンセリングの中で、クライアントの成長過程でのテーマや常規的言動、人格形成の周辺に関するやりとりを再確認してください。会話から得た異なる複数の次元の知識を要約し、主要なイメージを反芻してください。

− 最近私は、社会的に非常に成功しており豊かであるにも関わらず、自分が魅力的か否かを常に心配するあるクライアントと向き合いました。会話の中で彼は「いかに自分が病んでいるか」を、閉口するほど何度も繰り返すのです。私は最終的に、彼がそのかなりの職業的功績の観点でなく、むしろ病気によってアイデンティティを定義していたのではないか、という点を指摘しました。「悲哀に向かう手順がありますね」と私が言うと、この理解の展開に彼は驚きを見せました。長らく続いた人生傾向からまさに解放された瞬間です。私はカウンセリングの終わりにこの印象的な形容辞を用いて要点をまとめ、これまで彼がどこにいて、いま何に到達したかを確実に思い起こさせました。このケースでは、私の伝えたことはよく理解され、笑顔が広がりました。

「Reinforcement:補強」 ここでは近未来の戦略の補強がポイントです。 上述のクライアントのケースですが、実に積極的で堅牢に見えた彼の経営計画に私は言及しなければなりませんでした。とは言え、重要なのは、人生初期の家庭生活における「深い劣等感の過剰補償」の動機から、彼が職業において猛攻撃を続けていると考えられる点です。数々の成功は今や、彼の発展が円熟を迎えたことの証だと捉えるべきでしょう。またそれらは、社交界や仕事の場で彼が自覚する、非常に魅力ある貴重な自尊心(プライド)を彼にもたらすはずです。..決して、女性(母性)の同情を誘う「病気」ではありません。

「Raise Spirits :励まし」 クライアントが自身を肯定的に見られるようにします。拍手や逸話、心からの誠実な賛辞などでクライアントの精神を向上させてください。− 私たちの社会において、他者から誉められること、他者を誉めることがいかに稀少であるかを実感してください。信じられないかもしれませんが、特に人生初期の成長過程において一度も誉められず、支持的な評価をまったく得られなかったクライアントは何人か実在しました。

多くのクライアントが、カウンセリング終了時に「今日のカウンセリングは、私がこれまで他者から享受したものの中で最高です..!」と言ってくれました。 ...いかに多くの人々が、ポンと軽く背中をたたかれ励まされることに飢えているかを考えさせられる言葉だと思いませんか。

以下のようなフレーズのパワーを実感し、使いこなせるよう身につけてください。「You've got lots to do!(やらなければならないことはたくさんありますよ!)」「これから刺激的で面白い時節がやって来ます。そしてぜひ、12月の始めに必ず私に電話する、という予定をぜひカレンダーに書き加えてほしいと思います。..どんなことがあってもですよ..!」「それから、今日ここで達成したことよりも重要なのは、家に戻って奥さんをいつもより強く抱きしめてあげることです。奥さんがあなたを愛する理由のすべてをここで分かち合ったことをどうぞ忘れないでください。..あなた方お2人は縁あって一緒におられます。..あなたはすごい方だと私は思います。あなたがここで成し遂げたすべてを思い返してください。幾多の困難を克服したことでしょう。素晴らしいことです!」

− 「最後の5分間」の概要として呈示した上記のような手本の通りに、すべてのカウンセリングがスムーズに進行するわけではもちろんありません。保険勧誘員が応急策なしにいつでも契約を取れるというわけではないでしょう。建築現場で働く人々が自分の親指をハンマーで叩いてしまったり、郵便局員が荷物の配達に遅れてしまうことがありますが、占星家も例外ではありません。しかしここでのポイントは、カウンセリング終了間際の5分間が非常に重要であることの強調です。必要とあれば、この短い時間でクライアントを深く救済することも可能ですが、それよりも、ひとつでも多くクライアントの良い点を誉めることを心がけるとよいでしょう。

(訳:石塚隆一 校正:石塚三幸)


Essay < Page top <