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「時間」の助け(The Help of Time)

Counseling Insights 31 December 2005


人間は生来、自然治癒力や難局に対処する適応(順応)性を持ち合わせています。困難収拾の助けとなる本質的メカニズムは、人間の「心的状態」のシステムに組み込まれています。

この「対処メカニズム」は、気分を常時高揚させようとする不自然な努力のすべてに対し機能するようです。例えばドラッグ、アルコール、正当化、病的虚言癖、浪費癖などにより、精神的安定を永続的に保つことはできません。もっともっとと要求(依存)は増大し、行き着く先は「中毒」です。

人間には人生の難局に「慣れる」という性質があります。

人間は「慣れる」ことが得意です。 人が最初に幸せを感じるのは、たいていは自身の人生や気分の安定を構築してくれる何かに対してでしょう。しかし人間は永遠に同じ価値観で生きるわけではありません。要するに「慣れてしまう」のです。ある「幸福の価値観」を失ったら、それを手にする以前よりひどい状況に陥ります。そしてまた、「適応」による回復の過程が始まるのです。

戦時下の人間の「順応性」は、単なる日和見主義ではなく、強制による同化作用と言えるでしょう。そんな状態下ですら人間には長期間の忍耐が可能です。悠然と時間は流れ、その中で人は変わっていきます。

病気になる、職を失う、愛する人を失う等の体験をした人々が、いかにして立ち直るかに注目してください。流れるその「時間」の中で私たちは変化し、生き抜くことを学ぶのです。

精神療法の症例記録においては、支援(治療)を受けなかった人々が、時間とともにより良い経過を辿るという特異な現象が膨大に存在します。一部の精神科医が、本来精神科医にかかる予定の人々の「順番待ち状態」自体が、一種の治療の形式となり得るのではないか、と提案した事実は有名です。「順番待ち」の人々が医師に会う頃には、状態もよくなっていることでしょう!−かなり以前ですが、著名な精神分析医カレン・ホルナイが唯一勇敢にも「生命自体が、いつでも非常に有能なセラピストである」と言ったことがあります。

限られた時間の中で、人々は人生の現状について、友人や客観的アドバイザー(占星家など)と話します。そうすることで事態はより明白になります。他者の意見聞くことにより「戦略」が具体化します。「時間」は出来事や価値観に付随する感情の強烈さを希釈し、感情的な隔たりや客観的展望を可能にします。

古臭くて退屈な長話のオチは何でしょう?「いつかは思い出になるさ!」−私たちは、いかに頻繁にこういったアドバイスを口にしているでしょう。「君ならきっとそれを乗り越えられるよ!」「時間はあらゆる傷を癒やすから。」等々。

極めて重大な問題に関し、クライアントがいかに自分の観点を調整しているかが伺える言葉に注目してください。:「父は決して楽しい話をしない人でした。そもそも一緒に居ませんでした。いたとしてもそれは彼が泥酔した時でした。しかし、私はすべてを受け入れる努力をしました。父が私を愛し、成長を支えたいと真に望んでいたことは分かっています。父はただ問題を抱えていただけなんです。」− ..全体的に、これは実用的観点でしょう。父親のことで頭がいっぱいだった幼少期の自分に残存する前向きな結論としての声明でしょう。「時間」とはセラピストであり、私たち占星家はそのことに敬意を払う必要があるでしょう(単なる願望投影の声明でないことが確かな場合に、ですが)。

人は新たなふるまいを学び、新たな感情を表現します。過剰補償の方策をとれば、それは新たな習慣になります。

時間は「気晴らし」もしてくれます。私たち占星家は、限られた時間の中で、別の(今とは異なる)判断や対処法を要求されます。人間は精神的打撃や心の傷を抱えているため、世の中は静止することがありません。もし、それらが固着し動きを止めてしまったなら、日毎週毎のほんのささいな緊張さえ心身に堪え、私たちは精神の健全さを損なってしまうでしょう。

癌という疾患が、長引くうつ状態に関連しているというのは確かなことです。目の前の困難に対する無力感や長期のうつ状態は、寿命にも悪影響を及ぼします。−ストレスを避けるのでなく、むしろ効率的に且つ効果的に向き合った結果が「寿命(生存期間)」である、という点に私たちは留意する必要があります。否定的な感情があらゆることに影響を及ぼすという事実は、決して医学界の秘密事項ではありません。

しかし通常のカウンセリングでは、強度の精神危機的状態にはめったに遭遇しないことを知っておいてください。多くの場合、その個人なりの「対処メカニズム」が働いています。「時間の助け」もあります。

クライアントは、(しばしば移転を伴う)重大な転職や調停、策動に直面していることがかなり多いです。それらは完遂までに通常1年〜1年半程かかるような案件であり、人生の一大転期と言えるものです。クライアントは、そのようなときでも表向きは本題を離れ「..今日は私のプライベートな人生についてお伺いしたいんです。素敵な人に巡り会うことはあるでしょうか…」などと語り始めるものです。

答えは天体が用意しているわけではありません。職業上の焦点、地理的移動などにより生じる、人生の重要な軌道修正により「生まれ変わる」と言ってもいいような現実の体験の中で見つかるでしょう。−このことを説明するだけで、クライアントに希望を与えることができます。職業の専門性の向上に加え、新鮮な感情や新しいアイデンティティに前向きになれるでしょう。過去のこだわりを捨てた人は、それまでと異なる「雰囲気」や、異なる傾向の「生命信号」を放ちます。したがって以前と異なる種類の人物を惹きつけます..!−これを明確に意識し、自分の未来を考えて初めて「出会いを示す天体配置」が浮彫りになってくるでしょう。

クライアントは悲嘆に暮れている時、自由や元気を取り戻す方法を天体に探し求めるかもしれません。しかし「時間」−距離を取り意識を拡散する性質−が、苦難と向き合うクライアントを支援しています。私たち占星家は、「この忍耐はプロローグです。今は新しい発展に向かう扉が開こうとしている時なのです」と指摘することができるでしょう。

時期的な予測を講じたその期間が 相対的に「空虚」なもののように感じられたら、それは価値観を吸収(理解)したり新たな計画を立てるための人生の調整期間である、という見方をしてみてください。そして「発展の概念」を、最初にやってくる強力な時期表示の指針に焦点化してください。たいてい2年以内に、目標となるような時期が存在するものです。

占星家はこのように、「時間」について実用的かつ豊かな意義を提示することができるのです。

(訳:石塚隆一 校正:石塚三幸)


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