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文脈(情況)の重要性(The Importance of Context)

Tyl HP, October 31, 2003


「物事は可能な限り単純化されるべきである。ただし、それ以上単純にしてはいけない」 とアインシュタインは言いました。

なんと興味深い格言でしょう。この格言は心を打ちます。しかし理解するのはそれほど容易ではありません。(この格言における)彼の真意は何でしょうか。

この格言の意味は、最もシンプルな要素へと考察を単純化していくことは明快さを与え、効果的な説明をサポートしますが、しかしながらそのプロセスが行われ過ぎると、ひとつひとつの考察は文脈(情況)から外れてしまい、全体性を否定してしまう怖れを伴う、という意味ではないかという結論に私は達しました。

哲学の教義には、背理法(間接証明)というものがあります。それは、まず命題の否定が不合理へと導かれる可能性があることを示し命題(主張)の正しさを証明する方法です。

アインシュタインは、私たちが(物事の)最もシンプルな統合へと分解していく際に、行き過ぎるとまさにその「統合(一体感、全体性)」が脅されることがあり得ると言っています。統合が壊れていれば、全体が成り立ちません。全体からその文脈(情況)がなくなることにより、部分的な不合理が明らかになります。

月がその光に関して(占星術においてもそうです)、太陽に依存していることは周知の事実です。これは論を待ちません。月はその人の個性を通して光を放射するために太陽のエネルギーを使います。そして、個性を支配する欲求コンプレックスに起因する達成(充足)衝動にエネルギーを与えます。−また、その光が月に反射されるのを見ずに太陽を調査することは不可能です。実際、それは太陽(が自身を)を認識する唯一の実用的方法かもしれません。そうでなければ、私たちは網膜をやけどし、理解は枯れ、自身のアプローチは偏ることでしょう。私たちの世界(人生)における個性化開始のまさにその時に、私たちは文脈(情況)を失ってしまうでしょう。

「太陽サイン占い」が外れやすいのはこのためです。「太陽サイン占い」は、統合を否定します。つまり月に象徴される個別化の土台(他の天体が様々な度合いで太陽の光を反射する際にもそれは拡大されます)が無視されるのです。−カウンセリング中、私たちはとても頻繁に次のような発言をする状況に陥ります。「私たちはホロスコープ内の天体の位置に関して、このように断片的なものでなくもっと詳細な情報を必要とします」

例えば、もし太陽が魚座にあり同時に月が山羊座にある場合、その個人は単に太陽が魚にあるだけ、あるいは月が山羊にあるだけの場合とはまったく異なるものも持っています。私たちには、シンプルですが根本的に「ブレンド(統合)」が備わっているのです。人生における2つの光、太陽と月。それらは相互に関連しながら神聖な物語の文脈を作っています。−共にあるものを分離することは存在全体の基本的な統合に反するため、これ(太陽と月のブレンド)をより単純化することは、非実用的です。

魚座の太陽、山羊座の月。−このブレンドは、物事を起こす欲求や野心の管理を通して、感応性を確立します。感覚的な実業家と言えるかもしれません。あらゆる抽象的観念と具体的物質、理想化と現実性、夢想と実績などは、個性を前面に出すためにブレンドされます。−これをもっと単純化するための分解法は存在しません。

次に火星のポジションを加えてみましょう。火星という天体自体の象徴を独自に考察する(火星は獅子座にある)ことは、初期の学習過程においては大切なことですが、それは個性の本質の中に統合されてはじめて重要なものとなります。−魚座の太陽、山羊座の月に関して、獅子座の火星は、統合の際に山羊座の月チャンネルを支持するでしょう。おそらくは、言わば「やりたい放題」です。しかし、その火星が逆行しているか、海王星との関係において拡散しているとしたら、どうでしょうか。魚座太陽のエネルギーの流れに対する統合は、容易になるでしょうか? なります。エネルギーの適用は、おそらく検閲、編集、二義的問題、遅延、などによりうまく調整されるでしょう。

あらゆる新しい天体配置を解釈する時はいつも、新しい文脈(情況)が確立されます。統合は、合成のゴールです。背理法(間接証明)の問題は、行き過ぎる時に起こります。理解し、単純化するための努力の過程で、全体性に反してしまうのです。私たちが人間性をなおざりにすると、つまり個性の発達における「統合」をきちんと評価せずにいると、私たちの努力は機能障害に陥ります。文脈(情況)は、感応性を与えます。

興味をそそるアインシュタインの声明によって促される議論と カール・ハイゼンベルク(1901〜1976)の「不確定性原理」との関連性がここにあると私は思います。ハイゼンベルクは、測定の結果がまさしく私たちの測定する行為自体やその解釈により変化すると仮定しました。そして、物理学の法則は絶対的に確実なものではなく、むしろ相対的な可能性であると考えたのです。

この見地より、私たちは占星術を利用する際の定理を考えることができます。実際に、占星術の構成概念を理解することは、自然に存在するものの統合状態以上に、個々の要素の統合を深めます。

統合の力や、それを把握した際に得られる意味の最終的なシンプルさをしっかり認識しましょう。個々の完全性や現実の発達上の情況から離れる時、また個性の統合を考慮せず「部分」を絶賛する時、生じるひび割れによって敗北(挫折)しないようにしたいものです。

(訳:石塚隆一 校正:石塚三幸)


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