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空のハウスと12ハウスの天体

Tyl HP Analytical Techniques 2005 Apr 30


駆け出しの占星家は、「空(から)のハウスをどう読んだらよいのだろう」、「教科書に恐ろしげなことが書いてある12ハウスに天体があったら、どう解釈すればいいだろう」とおそらく悩むことでしょう。

在住星のない(空の)ハウスの解釈は、そのハウスカスプのサインの支配星を通して、他の天体配置からのチャート解釈の中に吸収されます。官能作家として国際的に有名なマダム・ザビエラ・ホランダーはMCが山羊座ですが、10ハウスに天体はありません。しかし土星(山羊座の支配星)は双子座の太陽とコンジャンクションであり、「コミュニケーションに関連する仕事」は即座に思い浮かびます。そして太陽は5ハウスの支配星です(5ハウスはセックスプロフィールの一部に関連します。さらに彼女の場合、セックスプロフィールの別側面を示す8ハウス支配の木星はMCとオポジションを形成しています)。ルーラーシップにより空のハウスの展開を推測していくにつれ、天体配置の謎は次第に解かれていきます。そしてホロスコープ全体の構図が浮かび上がります。

法王ベネディクト16世のMCは射手座で、10ハウスには天体がありません。MCを支配する木星はペレグリンでアセンダント上(魚座)にあり、ホロスコープ全体を強力に引っ張り、精神的探求の領域にエネルギーを消費する傾向があります。

空のハウスで示される問題の展開は、そのハウスの支配星を通して考察することができます。読み方はとてもシンプルです。

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12ハウスにある天体は大きな可能性を内包しています。必ずしも監禁や引きこもりの状態を示すわけではありません。12ハウスの天体は、隠遁傾向を持つというよりは、嵐の前の静けさとでも言うべき準備段階を表していると言えるでしょう。解釈の鍵となるのは、12ハウスの在住天体が若年期や人格形成期にソーラーアークでアセンダントまで降りてきた時です。この時期の活動や変化は人格形成に重要な影響を与えます。[人生初期においては、生活環境に活気があるか否かは両親の状況に左右されやすいでしょう。]

アセンダントに来る12ハウスの天体のアークは、「自己」の出現の焦点となる時期を正確に指摘します。たいていの場合、その影響力は鋭く強力で、他者や社会に認知され得る個人の独特な発達の時期となります。



ベートーベン [1770年12月16日 午前11時3分 LMTドイツ・ボン生]

ベートーベンは、12ハウス山羊座にペレグリンの金星があります。この配置は感情面の成熟の遅延(山羊座)や、簡単には満たされない個人的な(理想化された)美の感覚をたしかに推測させます。彼が人生の中で想いを寄せた女性は既婚者であったり、交際するには若すぎたり、彼に全く興味を示さない人ばかりでした。彼は「愛されること」を切望し苦悩の生涯を送りました。しかし、彼は自己の欲求を昇華させました。彼の悲哀は、握りしめた拳、くいしばった歯、燃える目のような彼の音楽の中に思い切り放たれ表現されました。

ベートーベンは次のように書いています。「このように、私は自分の中の深く親密な部分にしか支えを求めることができませんでした。外の世界には何もありませんでした。いえ、同種の感情や友情にまつわる傷心だけはありました。」

金星は3ハウスを支配しています。ベートーベンは家族ノイローゼ(「家族」は彼の中で極度に理想化されていました)を抱えており、彼の兄弟(3ハウス)とその息子カールとの関係においてそれは爆発し、彼はカールを自分の子にしようとして裁判を起こしたほどでした(社会的にそうせざるを得なかったのです)。

しかし、この天才作曲家の職業的領域を見てみると、ソーラーアークの金星がアセンダントへ来た22歳の時、彼はウィーンにおり、彼にとって最初の「著名な先生」フランツ・ジョセフ・ハイドンのもとで勉強していましたが、彼独特の美意識が要求してくるものや正しさの感覚、個性的な表現力のすべてが爆発し、彼は伝統主義的なハイドンと決別しました。決別の少し後、ハイドンは次のように書いています。「ベートーベンはますます幻想的な作曲をし続けるだろう。」古典派の第一人者であるハイドンの尋常ならざる記述です。

これが、ベートーベンのペレグリンの金星がついに12ハウスから抜け出し、ステージに上がった瞬間です。「個人的な美の感覚」(12ハウスの金星の雰囲気を暗示する私独特のフレーズです)はついに表出し、劇的な芸術表現へと転換されていきました。



ドナルド・トランプ [1946年6月14日 午前9時51分 EDTニューヨーク州クィーンズ生]

ドナルド・トランプ(アメリカの実業家で不動産王。大富豪としても知られる) のホロスコープでは、12ハウスで土星と金星がコンジャンクションしています。金星は数10億ドルを稼ぎ出した彼のMCの支配星です。同じく12ハウスにある冥王星はアセンダントのすぐ上に位置しています。

冥王星が12ハウスにあると「世間は自分を理解してくれない」という感じを持つことがあります。個人の展望が社会の中で明確になりにくいことから、一種の分離感覚や特異な生き方への傾倒が多くのケースで見られます。12ハウスの冥王星がソーラーアークでアセンダントを越えた時、それまでと全く違う次元の人生の焦点が得られたという例を私は何度も見ています。アイデンティティが刷新されることさえあります。

ソーラーアークの冥王星がアセンダントに来た時、トランプは7歳でした。同時期にトランジットの木星が彼の太陽の上に来ていました。この頃の彼についての詳細は分かりませんが、彼が自分の個性の力を上昇させようとして、あらゆる面で早熟であったことに間違いはないでしょう。スマッシュヒットとなった「アプレンティス」TVショーが始まった2004年は、12ハウスのテーマを抱えたトランジットの冥王星が5ハウス射手座の月に対して強い影響を与えていた1年でした。

土星と金星のアークがアセンダントを通過した時、トランプはキャリアに対する自分の視野の狭いこだわりを捨てました。ペンシルべニア大学のビジネスの名門ウォートン学派を卒業したにも関わらず、自ら師と仰ぐ建築業者の父親のもとで5年間働いたという事実がそれを示しています。この例でもやはり「12ハウスから出ること」が「脱皮」を意味しています。


エバンジェリン・アダムス [1868年2月8日 午前8時30分 LMTニュージャージー州ジャージーシティ生]

エバンジェリン・アダムス(「女ノストラダムス」と呼ばれ、第二次世界大戦ほか数々の予言を的中させた占術家。自分の死期も的中させた)の12ハウスにはいくつかの天体がありました。その中で最後に彼女のアセンダントに来たアークは太陽でした。1900年〜1901年に彼女は旅行でニューヨークを訪れ、そこに定住するようになり、驚くほどの名声を築き上げました。



ハリー英国皇太子 [1984年9月15日 16:20 GMD ロンドン生]

ハリー英国皇太子(大変若い王子です) の12ハウスの海王星(霊的な束縛の可能性や、貧しい者への思いやり、未知の物への好奇心などを表します)が彼のアセンダントに来たのは、まさに母親(ダイアナ元妃)が亡くなった時でした。



ブルック・シールズ [1965年5月31日 13:45 EDT ニューヨークマンハッタン州生]

ブルック・シールズ の12ハウスにある火星(通常隠された怒りを示します)、冥王星(理解されていない感覚)、天王星(表現力の統制に関する個性化の戦い)のすべてのアークが彼女のアセンダントを通過したのは、彼女が子供モデルとして活躍した6歳から13歳の時期でした。今日でも露出のいくつかに対して風当たりは強いようです。

このように見てくると、12ハウスは思っていたより活気あるハウスであることが分かります。この概観はもちろん、12ハウスや9ハウスの後半に位置する天体(人格形成期にソーラーアークでアングルへと進むことになる天体)により、職業の方向性が類別できるとするいわゆるゴークラン効果の背後にあるものです。

「空のハウス」と言っても、家(ハウス)には必ず誰かがいます。その「誰か」はどこかすぐそばの場所を訪れていて、ハウスの意味を概括しているのです。

(訳:石塚隆一 校正:石塚三幸)


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